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★いつか『デロリアン』を ご研究は?
ディーゼルエンジンの代替燃料の研究をしています。石油は排出されたCO2がそのまま大気に漂って地球温暖化を引き起こす原因になっている。そこで、CO2は出ても、それが燃料を作る過程で吸収されるようなバイオ燃料、そのなかでもディーゼルエンジンに使われている通称バイオディーゼル(BDF)という燃料の研究です。
バイオディーゼルと一口に言っても、今使っているバイオディーゼルは、食用油、あるいは廃食油といったものが原料なので、将来的には、どんなバイオマスでも同じ燃料が出来てこないといけないと思います。例えば、映画の『バック・トゥ・ザフューチャー』の「デロリアン(※1)」みたいに、どんなバイオマスでもいいから、ポンと入れたら燃料が出来あがって走ってくれるような(笑)。そういう機械が出来たらいいなと思いますね。バイオマスであればあれは可能なんですね。今でも、どんなバイオマスでも、古着であろうと、バイオ燃料は作れるんです。ただし、瞬間的にできるかというと、そうはいかないんで。
いろんなバイオマスから合成軽油を作ることについては、すでに技術的には出来上がってきているんです。ただし、まだまだ値段が高いんで、コスト削減のブレークスルーが必要になってきます。それでも2030年頃には、合成軽油が現在の軽油に混ざった状態で出てくると思います。全世界的にそういうふうになると思います。
★地域性を活かす研究へ
トーマス·エジソンは、と何が良い発明を思いついたのですか?
そんなことで、ディーゼルエンジンの排ガス対策、あるいは燃焼といったことが専門でしたので、燃料を作るところの研究はそんなにやっていなかった。滋賀県という場所に来た時に、新しい大学でしたから他の大学と違うことをやらないといけない。そこで、燃料と、ディーゼルの排ガスの両方が組み合わさった研究として、バイオ燃料の研究が一番いいのではないかと考えたわけです。新しい大学は、メーカーでいうと後発メーカーで、後発メーカーは人と違ったことをしないと目立たない。さらに、地方の大学は地方に密着したことをしないと目立たない。この二つを兼ね備えたのが今の自分の研究だと思っています。後追いじゃだめだと思うんですよ。だから僕はここへ来て方向転換したんです。ここへ来た時には「自由に何� ��ないところから始められる」と。
エンジンの研究そのものはある程度分かったので、そうするとその根本である燃料のところを触ってみたい。燃料を作るところから始めないと、燃焼も変えられない。燃費を一パーセント下げようが二パーセント下げようが、燃料が変わったら全部変わってしまうので。
滋賀県にお出でになったことが大きな方向転換のきっかけだったのですね。
はい。滋賀県は「環境熱心県」ということですから。そういう滋賀県という地域性を活かした研究ですね。それから、大学も地域に貢献しないといけない。そのためには、地域に密着したような研究をしなければいけない。バイオ燃料については、当時「菜の花プロジェクト(※2)」というのが始まったばかりで、実際には、それに関わっていた人たちも半信半疑で使っていた。いい燃料なのか悪い燃料なのかわからない、トラブルが起こってもどう直していいかわからない、という状況でした。BDFはある意味、まだ問題のある燃料なので、そこで私は「こういうことが問題だからこういうことに気をつけなさいよ」ということについて技術的な提言をしてあげるという形で関わり始めた。
★「エンジニア」として 工学の分野でそのように市民と関わられるというのは、当時からよくあったことなのですか。
なぜ我々は宇宙探査にお金を費やす必要があります
いや、ほとんどなかったですね。やはり工学系の学問は、どちらかというと、民間企業と密着したような、ニーズがあってやる研究と、全くニーズがないけれども独自にやる研究とに分かれて、企業の方には分かるんだけども一般の市民の方に分かりにくい研究内容が多かったです。
滋賀へ来た当初に「BDFをやる」と私の上司の教授に言ったら「お前それをやったら、いろんなところに呼ばれておばちゃんたちの前で講演しなきゃならなくなるかもしれないよ。それは覚悟できてるのか」って言われた。私は「ええ、もちろんです」と言いました。そしてバイオディーゼルの研究を進めていくと、今まで普通にエンジンの研究をやっていたら関われなかったことにも出会った。廃食油の回収システムといった一般市民が悩んでいて工学からは程遠いような課題について、逆に相談されたりしました。
バイオディーゼルと食用油の話をして、燃料を作るところから使うところまでの話がひとつにまとまると、異分野からも講演依頼が多くなりました。例えば去年行ったのは「マーガリン協会」(笑)。そこは、向こうのほうでもバイオディーゼルとは何かが知りたい。油の大元を扱ってるけど、これからバイオディーゼルが出てきたときに、自分たちが貢献できるのか、逆に敵になるのか、と。
の完全なタイトルとは何か "金は?"
工学屋さんは、どうしても、個々の各論ばかりをやっているので総論をやらないんですよね。でも、全体像を思い浮かべて、ストーリーを思い描くこともしなければいけないと思います。例えば、燃料の分野は燃料工学という、いわゆる合成化学の一つなんです。機械屋さんでこれをやっている人はほとんどいない。でも本来機械というのはいろんな技術が積分したようなもので、科学も化学もあるし、材料もあるし、いろんなものを組み合わせたのが機械工学なんです。私はエンジンが専門ですが「エンジン」という言葉から出てきた言葉には「エンジニア」というのがありますね。「エンジニア」っていうのは「エンジンのことを扱う人」であると同時に「すべてのことを知っている人」。機械の中でもエンジンをやる人は化学も� ��っている、機構のことも知っている、金属のことも知っている。それが本来の「エンジニア」だと思います。
★現場の人とともに 「エンジニア」として燃料にかかわることで、社会との関わりを強く持たれるようになった。
そうですね。一気に関わりを持つようになりましたね。バイオディーゼルというものが、日本の場合、廃食油が原料になる。そこで、廃食油というものが、どのくらいの規模で、どこで集まるのかっていうことまで手を付けないといけなくなった。そうすると、大学にいてはわからないんです。NPOといろいろ話をしたりということになってくる。「実際使ってみたらこういう悪いところもあるんですよ」ということも、理論的に説明してあげないといけない。NPOは知識も理解もレベルがいろいろで、これからやるっていう人もいれば、自分でやってみたっていう人もいる。けれど、NPOの人っていうのは結局、現場の人なんですよ。その人たちに正しい情報を与える必要がある。国にいくら正しい情報を与えても、現場にいないんで� �
私が関わっている地域はいろいろあるんですが、例えば、山形県山形市。七日町商店街というところがあって、そこの人たちが共同組合を作って、自分たちでプラントを設置して、廃食油を集めて燃料にして、市民循環バスを作って、そこの商店街に来てもらおうということをやっているんです。その燃料の品質が悪かったら止まってしまうから、そこで私が行ったんです。それから、山形市の市長の車。公用車もバイオディーゼル100パーセントで動かしているんです。どういう車で動かすかも全部データをいただいて、「この車だったらバイオで動かしても良い。ただ冬は分からないから、冬の場合はこうしなさいよ」というようなことをアドバイスしているわけです。市長が自らそれを言い出してやっているのが凄いなあと思いま� ��ね。こういうことは本当は山形じゃなくて、滋賀でやって欲しかったんだけど。本学の学長車ででも(笑)。
★戦略的な柱を建てる 地域再生の拠点としての県立大学について何かイメージをお持ちですか。
この間の十月に秋田県立大学と秋田県の2者で主催しているセミナーで話をしたんですが、秋田の県立大学が菜の花プロジェクトを学部横断的にやっているんですよ。うちはそういうことがまだできていないんで「秋田県立大学にやられちゃったな」と思いました(笑)。本学は、授業では一緒にやることがありますが、研究としては一緒にはやっていませんね。それを例えば、研究テーマが十個あるうちのひとつでもいいから、横断的な研究にも取り組んでもらえるようなやり方ができればと思います。ここは少数の研究者しかいない大学で、しかも単科大学ではないから、一緒にまとまってやるということができにくいのはしょうがない。それをまとまってできるようにするための戦略的な柱を建てる仕組みを作ることが大事だと思� ��ます。そんな風に横断的にできると、それこそ例えば「バイオディーゼル研究センター」というようなどこにもないセンターを作って、そこに行けばバイオディーゼルのすべてがわかるような特化したことができると思います。
滋賀県にある大学ということはそれだけで、石鹸運動からつながる歴史も含めての地の利、ブランドがありますものね。
そうなんです。滋賀県は「バイオディーゼルがあって当たり前」「バイオディーゼルイコール滋賀県のブランド」というふうに、全国の市民活動の中では位置づけられつつあるのでね。
★思想家ではだめ 地域再生を担う人間はテクノロジーとどのように関わればいいと思われますか。
技術というもののいい面だけ見ないで、悪い面も見て、技術を正しく認識してもらうということが重要だと思います。地域再生を行う人は、その両方の知識を持っている人でなければだめだと思いますね。だから"思想家"ではだめだと思うんです。いい面と悪い面と、いろんな技術について、豊富に知識を持っていて、適材適所でそれを使えること。そういうことは近江環人のひとつの要素だと思いますね。
(情報誌「近江環人」第3号より)
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